ぼくのスピリチュアル物語 40 「百番目のサル」



いま、ぼくは郷里の広島県福山市でこれを書いている。年老いた母を病院に見舞うための帰省なのだが、ふと思い立って約100キロ離れる広島市へと向かった。その目的地は、この連載の原点ともいえるカレーレストラン「百番目のサル」だ。

20年前に友人の車で連れて行ってもらっただけなので、ちゃんとたどり着けるか心配だったが、レンタカーのカーナビがいとも簡単に案内してくれた。

「百番目のサル」は、ぼくの20年前の記憶と変わらなかった。残念ながら瞑想ルームは物置になってしまっていたが、店内に並ぶ数多くの陶器と様々な本が並ぶ書棚はそのままだった。書棚のほぼ中央に一冊の本が目立って見えた。ぼくがいつも持ち歩いている本と同じ『生命の泉』である。

ぼくは、お客さんの対応に忙しい女将さんを捕まえるタイミングを見計らい、20年ぶりの来店を告げた。そして、自分の『生命の泉』を見せて、ずっと気になっていたことを勇気を出して尋ねた。それを知ることが一番の目的だったからだ。

「あの、静さんはご存命なのでしょうか?」

女将さんはニコリと頷いてくれた。ぼくは思わず、よかった〜と声を出していた。そして、女将さんは忙しい接客の合間をぬって、奥から昨年暮れに静香さんから届いた葉書を持ってきて見せてくれた。

葉書には、見覚えのある万年筆の文字で、挨拶もできないまま慌しく転居してしまったことを詫びる内容が綴られていた。現在、静さんは東京の高齢者マンションで暮らしているということだった。

静さんの現住所は、ぼくの職場から一時間とかからない場所だった。東京に帰ったら静さんに連絡を取り、会いに行こう。台風15号が接近する激しい風雨の中、ぼくは嬉々として福山まで車を走らせた。

『ぼくのスピリチュアル物語』、今後どんな展開を見せるのだろうか。
第2幕の始まりである。

(つづく)




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