ちょっとスピリチュアルな短編小説 No.7 「霊界へ戻った話 その2」


理恵は真美と同じ作業所でボランティアをしていた。
しかし、自分の人生すべてを懸けてやってきた真美とは違い、
理恵は自分の時間の空いている時間を有効に利用して献身してきた。

理恵は常々、こう言っていた。

 ボランティアほどすばらしい仕事はない。
 でも、家庭がうまくいっていない人はボランティアをやる資格はないと思う。
 家族を愛せない人が、障害者を愛せるはずはないのよ。

理恵は家庭をとても大切にしていた。
だから、家族に問題があったり、家族の誕生日や学校行事がある場合などは、当然の如くそれを優先していたが、ボランティアだからといって手を抜いていたわけではない。
とにかく、理恵なりにだけれど、家族にも障害者にも一生懸命に尽くした。

そんな理恵が癌にかかり、愛する家族を残して数ヵ月後に他界した。
理恵はしばらくの間、自分の葬儀に参列していたが、守護霊が現れ、気が付いた時はもう次の場所に移動していた。

どれくらい経っただろう。
気がつくとそこには守護霊がいて、優しく理恵に話しかけた。

「地上にいた時のことを覚えていますね」
「はい、覚えています。 今まで忘れていたことも今はどんどん蘇ってきています」

理恵の眼前、いや、脳裏かもしれないが、生まれてから死ぬまでのことが、まるで映画を見ているように流れている。
守護霊も一緒にそれを見ていた。

映像は、地上に誕生する以前から始まっていた。
地上に誕生しようと決心した時、利他に徹し、大きく成長することを誓っていた。
そして、子供の頃、学生の頃、結婚生活のこと、子供と関わり、近所の人との関わり、友人たちとの関わりなどが次から次へと現れた。

ここでの映像は、覚えていることはもちろん、自分では忘れていたことも、自分を偽って表面に出さなかったことも、全てが容赦なく映し出されていた。
そんな映像を見ながら反省し、また言いようのない恥ずかしさに苛(さいな)まれながら場面は進んでいった。
と同時に、他の人から見た自分の知らない自分が映し出されていたのに気がついた。

理恵は子供の頃、とても活発で、常にリーダー的な存在にいた。
自分では、弱きを助け、強気をくじく、正義感溢れる女の子だと思っていた。
ところが、友達から見た自分というのは、我が儘で気まぐれな女の子に過ぎなかった。

もともと頭は良かったので、高校でも大学でも、トップクラスにいた。
それが自分の自慢でもあったし、唯一誇れるところでもあった。
しかし友人から見ると、頭の良さを鼻にかけ、友達を見下していると映っていた。

家庭を持ってからの理恵は、自分では理想的な良妻賢母を自負していた。
ところが、夫から見ると、理恵は完ぺき主義者で、夫としても父親としても完璧さを要求され、息が詰まりそうだった。
家に帰っても体も心も安らげない。
少しでもダラけた格好をしていると、子供の躾に良くないからと改めさせられた。
食事の時も、テレビを見るのはもちろん、新聞を読みながら朝食なんていうのはご法度だった。
その反動からか、夫が浮気に走り、相手の女性宅でくつろいでいる様子も映し出された。

  あいつは、自分で自分に酔っているんだ。
  良妻賢母?
  とんでもない。
  少なくとも、オレにとっては良妻じゃないよ。

映像は子供たちの心も映し出した。

  お母さんは僕たちのことなんて、なーんにも考えていないのさ。
  良い点を取るのは当たり前で、学校のことを話したって小言しか返ってこない。
  僕たちの気持ちなんてなーんにもわかってくれない。
  とりあえず良い子を演じていればお母さんは満足なんだ。
  学校帰りにタバコを吸ったり女の子をナンパしていることを知ったら驚くだろうな。
  もし知ったら、勘当もんだな。
  あ、世間体を考えたら勘当もできないかも。

理恵は唖然とした。
自分は家族を思い、本当に一生懸命やってきたのに、理解されていなかったどころか、疎ましく思われていたなんて・・・。
その時、守護霊が言った。

  あなたは自分しか見えていなかったのです。
  自分の物差しが正しいと思い込んで判断してきた結果です。

これはボランティアでも同じだった。
完ぺき主義者の理恵は、作業所でもスタッフに完璧さを求めた。
自分にも厳しかったが、人にも厳しく、誰かが何かを失敗するととことん追及した。
同時に、障害者の家族にも完璧さを求めていた。
回りの者たちはみんな理恵の目を気にし、窮屈さを感じていた。

霊の世界、人の心の世界の摂理は「自己満足」ではなく、「利他愛」である。
自分のことを後回しにして、回りのために尽くすことで、回りも自分も幸せになる世界である。
お互いがお互いのために尽くしてこそ、本当の平和が訪れる世界である。
物質より霊的なことを優先させることで成長する世界である。

摂理とはそういうものだということに、理恵は映像を見て初めて気付かされた。
映像の中の自分を見る限り、自分がしてきたことは、確かに自分だけが満足していただけだった。
回りに圧迫感を与えていただけで、誰も幸せにはならなかった、と気がつかされた。

自分は家族のために生きてきたつもりが、家族にとってはマイナスの方が多かった。
ボランティアも障害者のためと言いながら、障害者のためにはなっていなかった。
結局は自分が優越感を味わうものでしかなかった。
全部自分の物差しで、自分の価値観で世間を見てきた心の狭さに、理恵は打ちのめされた。
地上に生まれる時、利他で生きていこうと決心したのに、「利他愛」が何なのか理解していなかったために、こんな人生になってしまった。
私の地上人生は失敗だった・・・

映像の全てが終わった時、守護霊が話しかけた。

「反省できるのは良いことです。 素直な証です。」
「私はもう一度やり直したいと思います。 できるでしょうか。」
「もちろん何度でもやり直しができます。 すでにあなたには次の地上人生が用意してあります。
 十分に準備をしてから再生しましょう。」

守護霊と理恵は次の段階へ向かって進んで行った。



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